そしておそらくはそれだけが在ることにより/ホロウ・シカエルボク
 

それは古いコンクリート建築で、ステージを取っ払ったライブハウスか、あるいは陳列棚を置き忘れたマーケットのように見えた。俺は入口付近にぼんやりと立っていて、手ぶらだった。左手側の壁面が俺の腰の高さ辺りから腕を頭上に掲げたその指先辺りの高さまで、少々の衝撃では破壊することは不可能だろうと思わせる厚く巨大なガラスがはめ込まれていたが、その向こうにあるはずの景色はうかがい知ることは出来なかった。オープンワールドゲームのバグ空間のような奇妙な色をした虚無が広がっているばかりで、従って今が朝なのか昼なのか夜なのかすら見当をつけることが出来なかった。俺はずっとその窓を見つめていたらしい。視線を逸らし、だだっ
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