夏、少年/嘉野千尋
 
    
   だけど君は駆けていったんだ



 思い出の丘を、雲の影が滑る
 丘の緑はかわることなく風に揺れ、
 遥か彼方に、夏の海を臨んでいる
 ごらん、あの細い坂道に
 僕らの置き忘れた、
 あの夏の影が踊っているよ



 月日は流れて、君の横顔をかえるだろう
 僕は時に肩を落としたり
 遠い空を振り仰いだりしながら
 それでもあの丘を、
 坂道を、
 忘れられずに



 木漏れ日と同じように輝いている
 あれは夏の思い出、
 少年のままの僕らの影法師が、ほら、あそこに
 入道雲が空を押し上げて、高く、高く
 そして夕立



 あれは僕らの夏



 記憶は鮮明で、
 かんたんに僕を連れ去ってしまう
 僕の目の前で木漏れ日が揺れる
 踊っているのはあの日の二人
  


   だけど君は駆けていったんだ




   僕だけを残して




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