詩の日めくり 二〇一六年二月一日─三十一日/田中宏輔
 
ろ安らかに生きている。ぼくのこころをおだやかにさせるのに、何万円も必要ではない。

 神さまに、こころから感謝している。ぼくに老年を与えてくださり、身体をボロボロにして苦痛を与えてくださり(左手は茶碗を持っても傷みと麻痺でブルブルと小刻みに震えるのだ)、そうして、大切な大切な読書という貧乏な者にでも楽しめる楽しみを与えてくださって。

 ぼくは絵描きになりたかった。でも、部屋の本棚に飾ってある美しい絵の一枚も、きっと描く才能はなかったと思う。神さまはそのかわりに、ぼくに絵を楽しむ才能を授けてくださった。ぼくには、『ふるさと遠く』『発狂した宇宙』『幼年期の終り』などの初版の絵がある。『空は船
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