モノクロの天国と極彩色の地獄/ただのみきや
人魚
樹はなめらかに地に裾を広げ
自己と向き合う静寂に包まれている
幹は根元の少し上から二股に分かれ
片方は太く もう片方はやや細い
幹が重なって見える角度を探すと
上に向かって微かに捻じれ
太い幹から伸びた枝が腕となり
細い幹を抱き寄せ 頬や唇を重ねては
また互いの瞳を覗き込む
刹那の中に永住しようとする恋人同士のよう
最初から誰よりも間近にいた
存在が己自身であることを
知ってか 知らぬか
ふたつの性を装い分枝した結合双生児
未分のまま充足し続ける性
その閉ざされた静謐には
鳥の声も子どもらの声も届かない
二本の幹はいつまでも
裸のまま風に包
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