刷り込み〜緑色に輝く透明な空の彼方に・・・/草野大悟2
顔を取り戻し、中央の絵画展に入賞を重ねるようになりました。髄膜腫手術の失敗で寝たきりになる五十五歳までは。
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呼吸がますます浅くなってくる。美知子が逝こうとしている。一つの呼吸の間隔が長くなってきた。うっすらと空が白んできた。雀がちゅんちゅん鳴きはじめた。
「美知子、今日も晴れだぞ」 返事はない。胸の奥に、そうだね、という声が響く。「よかったな」「うん」「青空、好きだもんな」「うん。それに、ひまわり」「あゝ、ひまわり、な」「うん、大好き」視界がぼやけてくる。美知子の目から涙がじんわりと零れてきた。手から俺の手に、命のようなもの、あるいは美知子そのものとしか表現しようのない気が流れ込んでくるのがわかった。
「じゃ、いくね」とでも言っているかのような旅立ちだった。
二〇一七年十一月五日午前六時十七分、美知子は、六七年の生涯を閉じた……。
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サヨナラは出会い。夕陽の中だ。勝ち気な瞳。ショートカット。華奢なからだ。風のように、光のように、純粋が、緑色に輝く透明な空の彼方で飛び跳ねている。
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