気化の誘惑/ただのみきや
 

掌にそっと包んだ蜘蛛に咬まれて
上気した頬――金の産毛の草原へ
わたしは微睡みを傾けた
卒塔婆に書かれた詩のように
高く傾いだ空の下で

訪れては去って行く
たった一つの繰り返し
嵐の回路よ
砂埃の中の蝶のように
眼差しを奪い
わたしの中へ消えて行く






画集

遅延した春のぬかるんだ背中から
突き出した顎骨が伝導する
氷漬けにされた良心の糜爛した夜景から
拾い集めた糸屑でいっぱいの咳込む心臓
鳥のように麻酔もなく切開されたものよ
そぎ落とされた三百グラムの太陽を
朴訥な四つん這いの狂気が咥えて行くのに任せ
時計に
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