舌と筈/妻咲邦香
 
その日あなたはこの場所に立っていたんだね
激しいビル風が時計台の鐘を余分に叩いて
さぞかし五月蝿かったろうね
私マフラーを何重にも巻いて
冷たくされても平気だった
だってあなたの好みなんて興味がなかったし
今日もあの店で可愛い花が買えればそれで
  アオバソウ
  ユウフヅキ
  カゲロウモドキ

思い出せないネジが心の何処かにあって
飾りだと思ってたから錆び付かせてしまった
西友で買った小間切れ肉のパック
ラップを引き裂いて今宵も血の息遣いを逃がす

噛み続けてた心音に味がしなくなっても
いつまでも捨てれないのは
唾液で街を汚したくないから
お気に入りの一張羅はおって
密かに自慢しながら暮らしていたいだけ

生まれ変わるとしたら何がいいだろう?
美味しいお酒が飲めて
現実味のない夢を見て
嫌われてもいいから自分だけは理解者でいたい
そう言ってた筈のあなたが先に立ち去った
  センジュコウ
  ヒメカズラ
  コシノスミレ
  今日はどれがお薦めかしら?

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