春の花/田中修子
、硬直して犯される人のこと。
あの子のように、新聞にも載らずに死ぬ人が、たくさんたくさんいたでしょう。
この頃は悪咳流行りの大騒ぎです。
(深い、暗い森。黒髪のラプンツェルが、
塔から降りてひとりでよろめいている。
王子はいないが、いない王子の傷まで引き受け、
彼女の眼は灯かりを失っている。
そう、王子はいないんだ、って、
ひとりきり、生きるっきゃないから、
包帯を巻いて、鬼さんこちら、手の鳴るほうへ--男たちが、
戯れに。
白粉塗って、割れしのぶに結い、梅の簪刺しまして、着物を着ましょ、
いざとなったら簪で、男を刺し殺してしまいましょ)
もう余生のようなんです。
あなたにとっての春は、私と過ごした日々でしたか、あなたの春の花でしたか。
それももはや、過去の話、あなたは逝った。
私は目を瞑って、戦争を閉ざしている。大きいのもだ、小さいのもだ。
余生を死ぬまで、生きなけりゃ、ならない、
まだ三十六だ。
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