一筆/
妻咲邦香
解き放たれ、墜ちるところまで堕ちて
だから旅に出るんです、この筆を手に
今の私を綴るのに相応しい一枚の葉を大海から掬い戻すため
すべからく空蝉の申し出を受け
その姿を借りて歌の無い、音の無い
脈はあっても血も骨も肉も全てその因果を伏せたままで
まだかさぶたに鈍い痛みの浮き出る
まずは手始めに水平に夕刻をすっと引いたら
滲むインクの流域
じんわりと拡がるその幅で漕いで行く舟と
情緒の波と
啓上
「またいずれお会いしましたね」
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