オムレット/妻咲邦香
三面鏡に映る空が分断されて寂しそうなので
4年ぶりに宝くじを買いました
僅か数枚のコインでも手に入る世界
ケチャップは暗い夜の色
手を振ったら何もかもが終わってしまう気がして
ずっと背伸びをしてました
出来るだけ遠くまで見渡せるように
単に見失いたくなかっただけかもしれません
いずれ見えなくなったものたちは
地平線の向こう側で混ざり合ってしまうというのに
前髪を切り揃える度に玉子を産み落とします
週明け毎に1個ずつ
お陰で私の境界線には固い殻が出来上がりました
中身はあの人と同じまるで形の無いもの
黄身も白身もありません
出がらしとなった覚悟は孤独で薄めて
下水に流して捨てました
ポテトチップスの袋を破いて
指に付いた塩を舐めながら泳いでいます
クロールしながら
痛みに手引かれたこの世界を
単に見失いたくなかっただけかもしれなくて
いつか私はこの水槽から飛び出して
あの人の朝食にDiveするでしょう
大海原を尻目にノイズのように微笑んで
ケチャップは固まりかけた血のような朝の色
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