黒猫と少年(6)/嘉野千尋
 
  
  *バレリーナ


  古びたオルゴールの蓋を開けると、バレリーナがくるくると踊りだす。
  それから、名前を思い出せない曲がゆっくりと流れ出した。
  黒猫は、もう随分前からくもったままのオルゴールの鏡を覗き込み、
  一人で踊っているバレリーナに指先でふれてみた。
  物悲しい調べにのって、くるくるとバレリーナは踊る。
  白いトゥシューズ、白いチュチュ、それから白い羽飾りを、
  黒猫はじっと見つめた。
  バレリーナの両腕は、
  そこにいたはずの誰かを抱くようにして、
  わずかに広がっている。
  黒猫は、くるくると回るバレリーナを目で追いながら、
  明日の晩が三日月であることを思い出した。
 「・・・馬鹿みたい」
  黒猫は頬杖をついていつまでもバレリーナを眺めていた。



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