CROW/妻咲邦香
 
深淵はもう飽きました
表層に憧れてます
うらぶれた地質学に小さな納屋を建て
夕陽のことを考えて、戒名と共に暮らす
昨日の事を今日のように話す家畜と
生活の匂いのしない長さと
大小の容れ物に仕舞われた作物と
舌先(のようなもの)と

戻った時にはひとりだった
今度は耐えられるだろう
レンズの裏側に捕らえられた展望のうち
一体どれだけのものを私は相続出来るだろう?
どれだけの足が私の後を追うだろう?
夕陽のことを考える
少しだけ考える

光源の切れた街灯はもはや虫を集められず
山の向こうではまたひとつ町が消える
皆従順な仕掛けの争いに駆り出され
水車以外に話の出来る者はおらず
洗濯板もあの日以来使われなくなった

多くを愛さなくとも良い
行ったきりの時間を待ち続けて、塒を温める
喉仏を拾い、雷鳴に情けをかけられ
自らを下僕と称す
感謝こそ口に出さぬが、石になる前の人の姿だ
煤を払えば道が開け
辞書も読み捨てられる事を知り
それでも夕陽のことをやはり考える
今から会うのはおそらく
昨日とは別の夕陽だろう
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