あなたはただ佇んでいる、それがわたしには心地好い/ホロウ・シカエルボク
 

靴の甲のあたりの高さにもなれない、小さく目立たない花が板塀の脚に沿って群生している、昨夜遅くの雨でそいつらはテレビコマーシャルのように粒の小さい光を跳ねている、板塀はところどころ破れていて、それはおそらくは破壊ではなく、それだけの年月が過ぎたためだと納得させるだけの材料がそろっていた、その、塀でなくなった部分からは、ガラス戸が開け放され、平行四辺形を作ろうとして失敗したかのように歪んだ、昭和中期あたりの平均的な住宅が見えた、その、ほんの一瞬の景色だけでも、まともな理由で人が居なくなったのではないだろうことがうかがい知れた、なにしろ、ある日突然人だけが居なくなったかのようになにもかも残されている
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