あらかじめ瓦礫の中の/ホロウ・シカエルボク
裏路地にもう何十年も転がってる自転車の
茶褐色に錆びた車輪が真夜中に一度だけ軋んだ
生き過ぎた鳥のため息のような音
その時、俺の知り合いがそこに居れば
俺がひとりで何事か話していると思ったかもしれない
月はまだ不完全な球体で
穏やかな呪いのような薄明るい色をしていた
いつかそこを歩いた者たちの影が
地面に溶けてノスタルジーと名を変えている
足音を立てないように歩け
潰れた車の修理工場の脇で
野良猫が眠っていた
食い散らかされた
鳩の死骸と
ともに
ウルリッチの小説に出てきそうな
古い洋品店はこの街じゃ一番の曰くつき
色恋沙汰で女主人がめった
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