泡姫の記憶/板谷みきょう
 
たしか
あの頃のボクは
人混みに紛れながら
孤独に苦しみ
絶望していたのだ

星さえ見えない
昼間のような夜の繁華街で
ビルとビルの間を行き交う人々が
楽し気に見えて
何もかもが羨ましく思えた

性欲も失せて
不能者になっていたが
それはそれで
別に困る事でも無かった

朧げな記憶を辿る
ススキノの店で
歌っていた当時
階段を降りた地下に
トルコ風呂が有った
60分コースで
指名料込みでも八千円

歌い終えて帰る途中に
立ち寄り
そこで寂しさを
紛らわすことを覚えた

お風呂に入って
泡姫と話すだけの60分

いつしか
馴染みの泡
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