羊たちの烙印/ホロウ・シカエルボク
 
くる、俺は薄暗い住宅街へと入り込んでいく、それは俺の帰る家の方角ではない、でもその日はもう少し歩きたかったのだ、状況と願望がうまく?み合わない日がよくある、凍えていることを思えば帰るべきなのだ、そうして俺はどこで方向を変えるつもりなのだろう?そこは古い住宅地で、どんづまりになる、家に帰りたければ踵を返すしかない、でも俺にはまだそのつもりはないーあまり大きな声で言えた話ではないけれど、そこからの並びは少々タチの悪い要素を含んでいる…途端に薄暗くなる通りに足を踏み入れていると、自分がだんだん夜に飲み込まれていくような気がする、車道とも歩道ともつかない通りの端には、セメントで出来た蓋が側溝にかぶせられている、その中のほどんどが欠損していて、溝に潜むものたちのにおいが微かに立ち上っている気がする、おそらくははるか昔から、どうにかしようという気持ちがない流れ…俺はそのそばに立ち唾を吐く、示唆や暗示はあまりにも当り前過ぎて、人の心には届かないことが多いとしたものだ。
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