夏の底/鳴神夭花
きりきりと雨の音がしている
ないはずの傷がぐるぐると呻いて
僕は笑ってしまう
きみは何処にだっているのに
まるで恋をしているように急かすのだから
いつだって
ひとは水から生まれて
ひとは水にかえるのに
僕たちはみな
水のことばを忘れてしまった
きりきりと
耳を掻き消すように雨は降るけれど
いつまで経っても二足歩行で
誰も信じてはくれないんだ
僕たちはみな
おんなじであったこと
あわぶくのなかに
いのちがあったこと
この尾鰭はきみにみえるかな
僕に少しは似合うかな
まだすこし
時間はかかるだろうけれど
この喉はきみに
持ち帰るためのお土産を探しているんだよ
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