フロントガラスにちいさな蝶が止まった/ただのみきや
 
招待状

時折 招待所が届く
ある時はコクトー
ある時は犀星
畠山千代子だったことも
メルヴィルの白鯨の一章だったりもする

だからと言っていそいそと出かけはしない
しばらく触れたり眺めたりしたことのない
それを 想い浮かべるだけ

そうして数か月あるいは数年後
何かの用事で近くへ来て
ふと埠頭や 砂浜へ足を運ぶ時
期待を裏切らず
あいかわらず代り映えのしない 海は
理解できない胸襟を開いて迎えてくれる





子安貝

わたしの夏は記憶の集積である
夏草を掻き分けて
木洩れ日を乗せては払い
墓地のある斜面を下り
ひとけのない
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