祭りの夜/メープルコート
 

 祭りの日の夜、賑わいの中で浴衣が揺れている。
 蒸し風呂の中での会話のように言葉はくぐもり、
 汗は流れ、肉体は肉体の中で直立している。
 虚しさは寂しさを無限に超越してゆく。

 男の浴衣の胸元ははだけ、肉体は硬直し、頬は紅潮している。
 醜さも愛しくなるほど突き上げられている。
 信じられないほどの鈍さで時間は過ぎてゆく。
 三回目の嘔吐で世界が回りだした。

 行く道は険しく辛い。
 自分だけが辛い訳ではないだろうに。
 あの人も他の人も辛さを見せないのに。

 祭囃子の余韻が犬の遠吠えのように響いている。
 何度も果てた男が神の懐に逃げてゆく。
 私を男に産んだ両親ももういない。
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