ブナ林にて/山人
 
引き合うものもなく
昨日はただ、二人だけで仕事をしていたのだった

いつもに増して饒舌な彼は
くだらない話題を口にし
それに呼応しながら
私もつまらなすぎる人生を嗤った

霧は深くなり、やがて小雨から本降りの雨となった
急傾斜地の刈り上げた道をふたたび下ってゆく

午後からおろしたスパイク長靴は
とても良く土に食いついた
やがて雨はズボンのすそを通り
長靴の中まで侵入したころ
私たちは車のところに着いたのだった



戻る   Point(16)