帰郷/ただのみきや
 
かれてどこかへ消えてしまうし、瓜みたいに人目の届か
ない淵で冷たく浮かんでいたりもする。曖昧で死にやすい存
在だった。

 祖母と祖母のラジオはよく似た声でしゃべった。納屋で祖
母は良く何かの種を選別をしていた。
 時々祖母は一つの巻貝の殻に何かつぶやくともう一つの貝
殻を耳に当てていた。ある日なにをしているのか尋ねると白
濁した眼を少し傾けて「遠いところと話しているんだ 糸よ
り細く捻じれた水の道があって…… 」そんなことを言って
いた。
 祖母は海辺で生まれ育ったと言う。祖父と結婚してからは
山に囲まれた暮らしをもう六十年以上続けている。祖母は水
と良く話をしていた。
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