小さな庭/田中修子
 
あのひとはやみに閉ざされていたころの
北極星
もう去った
気配だけが

ことばにつながる みち が幾らでもあったことを

まだわたしはひとではない
ひとであったことはいちどもない
これからもない

夕暮れ 空を苦しげなように覆っている雲から
ひかりが静かにおちていった そうしてあたりを薄紫に染めて
とどろく
五月の神様のひっかき傷はあかるく落ちてくる
そのいくつもの線が
なにかを指し示しているのだけど ただ 泣いているようで
やがて降りしきる
雨粒のひとつひとつが
生きること死ぬことそのあいまのすべてのことを
ささやいている
そのすべてを耳たぶに飾りたくて
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