黒ヒョウの家/やまうちあつし
病が流行していて
それどころではないと
にべもない
こうなったら町内会長の出番
我らが町内会長は
弁の立つ若輩者
何より
子どもらの安全を
守らねばならない
住民たちに後押しをされ
町内会長は立ち上がる
なあに話せばわかってもらえる
何も戦いにいくのではないから
と
家人が差し出すスタンガンこそ持たないが
娘の赤いランドセルから
不審者用の防犯ブザーをこっそり借りた
町内会長は波打つ胸を押さえて
件の家のブザーを押すも
返答はない
ここであっさり引き返しては
二丁目を束ねる長の名がすたる
生唾を飲み込み
玄関を開ける
音もなく開く扉
その向こうには
湿った匂いを漂わせ
うっそうと生い茂る
密林
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