平衡/カンチェルスキス
のついた手を
くしゃくしゃの紙のナプキンで
何度も拭いた。
そしておれは
自分でも感知せぬ瞬間に
立ち上がり
ゴミをくずかごに入れ
トレイの上にトレイを重ねていた。
危機を脱した気分だった。
初老の女たちが
グループで騒いでいた。
さえない男と女が
これから何かを注文するところだった。
宝くじ売り場の女が
ガラスの向こう
無表情で座っていた。
おれは振り返った。
女は
おれがはじめて見たときの形のまま
テーブルに突っ伏して
眠っていた。
うなだれ眠る女の存在を無視する
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