冬を越えるために・改稿/帆場蔵人
人が春を思ってくれることを願わずにはいられないのだ。ほっ、と温んだ悲しみさんが人びとに沁み渡り桜の記憶に花を咲かせるだろう。オーリオーンの足もとで戯れる二匹の犬が未来へと吠えたてはじめたから、ほら冬があんなに慌てている。空が白くぬかるんで。
ねぇ、悲しみさん、まだぼくの傍にいてくれますか。ただひとつ、ひとつだけしゃぼん玉を胸に懐いていることを許して欲しい。冬は寒いけれど、僕が僕の呼吸で春を迎える生き方を許してくれないか。それならきっと少し優しくなれるかもしれない。爪を隠し眠る黒髪の獣もどうにか人らしくみえるだろう。
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