化石のなかで眠る/こたきひろし
からいつも垂れ流されているテレビ画面の時刻の数字に目をやった
もうこんな時間か 俺いくから
と慌ただしく立ち上がり玄関まで歩くと
後からついてきて見送る妻の耳元に口を近づけて甘く囁いた
今夜は何よりもいちばんに君を食べたいな
と
結婚して家庭を持ったら
そんなしあわせが当然やって来るものと
男はずっと夢想していたものだ
ずっとずっと切ないくらいに
一人ぼっちの暮らしのなかで
独居生活のまま
いつか化石のなかに眠ってしまわないかと
恐怖を覚えなから
その恐怖と痛みを抑えるクスリにしたくて
夢想したのだ
しかしそれはどこまでも現実には結びつかない
儚い蜃気楼
とても儚い蜃気楼だった
のだ
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