車椅子/為平 澪
すきを横目にしながら
薄暗い椿の森へと入っていく
車椅子は重くなる
荷物を抱えている母を押しながら
一歩、一歩、と 足を
前に出さなければ進めない苛立ちを踏みしめながら
押し車のグリップに圧し掛かる手のひらの強張りに
肩を震わせながら 前へ、前へと、そして 前には、
坂道、坂道、そしてまた デコボコの坂道
私が車椅子に乗せている人は誰だろう
そして 運んでいるものは何だろう
対岸の入口の傍に菊花展の菊の花が 黄色く灯る
白菊の花の灯りもぼんやり見える
紫や白の緞帳の中に飾られた
菊花を見に来る行列に紛れて
車椅子を押す女が見える
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