出生から今日までの日々を/こたきひろし
悩ましく
苦しめてくる
まるで黒い染みだ
私は十五年近く
飲食店の厨房を渡り歩いた
その時教わったのは
料理は
最初の一口で旨いと思わせては駄目だ
最後の一口で
旨かったと想わせなければ
美味しかった。ごちそうさまと言って貰えるくらいに
だから
最初の一口は物足りないないくらいがいいんだと
教えてくれた
結局
私はその極意を身に付けられなくて
途中で放り投げた
職人世界の
修行の辛さ厳しさに
ついていけなかったのだ
逃げ出したのだ
日々は明けては暮れる
いつか
明けて暮れなくなるまで
その先は
地獄へいかされて
仏に会えるかも
知れない
それとも
極楽へ堕ちて
煮えたぎる
風呂で癒される
かも
しれない
すべては
何も
わからない
わからないから
日々を明けて暮れて
生きていられるのさ
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