重たい選択にしないで/福ちゃん
数年ぶりに姿を現した魚が街を襲い
道路には生臭い空気が漂っている
僕は右手にファブリーズを持ったまま
身動きできずに立っているんだ
もちろん今朝、家を出た瞬間から
自分のズレには気づいていたさ
だけどどうしてもここに来てしまった
あるいは鯛やヒラメの方が
僕をここに連れてきたのかもしれない
どうしてだか
ただシュってしたいそれだけの気持ちで
僕はここに立っているんだ
だけどそれなのに
僕は未だに引金が引かないままでいる
そしてにもかかわらず
「詰め替え用も持ってきておけば良かったな」
なんて、考えてしまっているんだよ
このひと吹きさえできないで
人差し指さえ動かさないで
あくまで分かったような態度を
とり続けているんだ
その思考に僕は静かに引金を引く
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