台所の海/帆場蔵人
 
てくるのも
まだまだ先だから鍋から皿に
盛りつけた煮魚を僕は食べる

猫たちは原始の海など忘れて
僕の周りをグルグル回って
空腹を満たして寝てしまう

真夜中の卓上に置かれた海に
注がれる視線と時と月明かり
釣り糸はまだまだ揺れない

ハルキゲニアやアノマロカリスは
まだかと猫たちと眠りの糸垂らし
台所にはシダ植物が密林をつくり
陸に上がった魚のヒレが夢を擽る

恐竜たちが闊歩して瞬く間に滅びて
猿たちが狂乱のうちに滅びさりゆき
夕飯の魚の骨がゴミ箱で身をよじる

ふと、目を覚ました早朝に冷え切った
原始の海はとても静かで糸も揺れない
指先で海を掬い舐めとれば瞬きの内に
僕のなかで四十億年が過ぎ去り血潮が
静かに海鳴りする、卓上の海は静かだ

あまりにも海から離れてしまった
もう後戻りは出来はしないから
四〇億年前の海を窓から降らせた







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