台所の海/帆場蔵人
 
水道水にヒマラヤの岩塩を溶かして
瓶に注いでいけば四〇億年前の海だ

空っぽの冷蔵庫の唸りとぶつかる
海鳴りに耳を傾けている台所の
卓上の猫たちの我がもの顔
原始の海に釣り糸を垂らす
僕が何を釣り上げるのか、と
食卓にあがる獲物を観る瞳と
海の香を嗅いでいる小さな鼻

火にかけた鍋のなかで四〇億年後の
海の生命も静かに耳を傾けているのは
自分たちのルーツに興味があるから?

台所の海はあまりに静かだ

思索の釣り糸は揺れない
アミノ酸でも、足そうか
光合成しないと駄目なのか

時だけがたれていく

なんにしてもカンブリア爆発も
生命が海から上がってく
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