かこう/ねなぎ
 

どうやって得るかの選択で
僕は川の上流にある工場で
日々
油に塗れる仕事に就いた

朝の早さと暗いうちからの作業が
身に染み付くのを実感する

天候に左右されない工程

急激に吐き出される
工業用水を見ながら
僕は忙しなく
煙草を吸い続ける

食卓に並ぶ魚と
その向こうに見える湯気が
刻まれた皺で笑う顔を
滲ませて霞ませていく

思い出せるのは匂い
染み付いても取れない匂い

汗を拭う日々が昔と繋がらない様に
流れも又
繋がらない様に思えて
一人
揮発性の匂いに
気分が悪くなる

鉄粉とオイルが染み付き
汗と一緒に流れないように
交じり合う事の無い川は
ゆっくりと水音を立てる

今でも海辺には
漁業を営む人々が
ゆっくりとした日々を
規則正しく
暮らしている

僕は繋がらなくなった川を
一人眺めながら
川の向こうに
海を思い出せなくなっている
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