ロストボーイ/末下りょう
 
の風のなかにほどき歌を忘れて人間と恋に落ち
首吊り人の木は冬の陽射しの激しい影に倒されて栗鼠の巣になり
インディアンたちは羽根冠とフェイスペイントを輝かせて昨日の突き当たりみたいな夕暮れに気高く立ってた
ひどく痩せたカーペンターはすべての木材を腐らせてキャプテン フックは鉄の義手で有限のつめたいオナニーに耽り
ティンカーベルが蓋のあいたピーナツ バターを舐めにくるころ靴に縫い付けた影がとれそうなピーターは階段の上の大人たちのひそひそ話を聞きつけて凶暴なワニは水を濁らせながら沼底にみえなくなった
ロストボーイの足音ロストボーイの足音ロストボーイの足音

夜の窓の隙間からのびてくる細長い脚がまだ純粋な朝の裾を爪先で踏んづけて捕まえてる
微かに揺れるカーテンの端にきらめく緑の目尻がなにもかも忘れたことを忘れたことすら忘れずに
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