クチナシと蜘蛛/田中修子
すこし朽ちかけたクチナシの白い花 濃い緑の葉のなかに
銀色の籠を
蜘蛛が編んでいて
そのつましいようにみえて
ほそうい ほそうい レース糸でできた瀟洒な籠のなかに
澄んだ雨粒が ころんコロンころんコロンと
何粒かしまい込まれていたわ。
やがてポロロンと溢れるクチナシ香水
みちゆくひとのあしもとを
ほんのりと白く飾っていく 幽香
あまりにもあふれて 人は口がないように はなをひくひくさせてしまう
そうして声がひととき 止んで
傘にたたきつけられる雨の音だけが あたりにパタタタタッて
鳴りはためく
そのためにこの色白の女の胸元みたいな花は
クチナシと名付けられたんだわ
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