「ひまわり」/羽衣なつの
見つめていた。
お盆がすぎた頃のある日、わたしはいつものように麻子ちゃんをたずねた。麻子ちゃんは、もう「ひまわり」を描いていなかった。スケッチブックは閉じられ、勉強机の上に置かれていた。わたしたちはまた、前のように、とりとめのない話をした。
とつぜん、麻子ちゃんが「見て」といい、はさみを手に取り、長いおさげ髪をじょきり、と切り落とした。わたしはあっ、と口をあけた。髪を切った麻子ちゃんは、小学生のころにふたりで読んだ、ギリシャ神話の絵本に出てくる美しい青年のようだった。わたしがそういうと、麻子ちゃんは
「じゃあ、元気になったら、わたし、なっちゃんのところにヨバイに行ってあげるね」
といって、たのしそうに笑った。
麻子ちゃんは、その夏の八月三十一日まで生きた。十五歳だった。
戻る 編 削 Point(7)