声/山人
 
ちはすでに使われることのない、今後使われはずのない、テニスコートの声をずっとずっと聴いてきた。私たちが私たちのために施した、この鬼畜の作業の中でテニスコートは声を発していた。こそげ採った泥のあとを暑い日射と風が通り過ぎ、あたりは何事もなかったように平面をさらしていた。それが声だった、かつてテニスコートだったはずの平面の声だった。
私たちの声とテニスコートの声が、寂れた施設のなかで静かに交わっていた。
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