母親は俺の顔も名前も忘れた/こたきひろし
 

折角来たんだから

妻が言った

母さん
私は声をかけて静かに母親の体をゆすった
すると目をあけたが、
誰?
と言う顔で私と妻を見た
だけだった

そしてふたたび目を閉じた
私はその時携帯をボケットから出してカメラ機能にした
母親に向けてシャッターを切ろうとして妻に制止された

制止を振り切って連写した
それから妻を促し
素早く部屋を出た

施設から外に出ると
昼下がりの空は青々と晴れ渡っていた
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