川が蛇になって/こたきひろし
 
辺鄙な山あいを川が流れていた
普段は大人しい川。水嵩は少なかった。

その辺りは地図の上では町と村の境目。
上流が村で下流が町だった。県道が一本中央を貫いていて町と村を繋いでいた。
もしその道が通行不能になったら、陸の孤島になってしまうだろう。

畑と田んぼばかりの所だった。
隣の村と町では学区が違うのでそれが壁になり、子供らが一緒に遊ぶ事はなかった。

台風がきて過ぎ去った。
川は毒を持った巨大な蛇のように変身していて、怖くて近づけなくなっていた。

私は町の子供だった。川は家の近くを流れていたのでいつも川音が聞こえていた筈だが、長い間に耳がすっかり馬鹿になっていた。
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