夕日の約束/立見春香
なら新月が
静かな誓いをやわらかい光にして
やさしくやさしく歌を歌うのです
誰も知らない
幸せだけが
とてもわかりにくくて
上手に泳げる人間にはなれないんですよ
感度だけを研ぎ澄まして
さながらたんぽぽの花のように
繊細っぽい顔つきで
さながらたんぽぽの茎のように
か細く折れかけながらも
さながらたんぽぽの綿毛のように
一日を浮き沈みしてきたけれど
泳げない人生などないのです
そう信じて
夕日が沈む黄昏に思います
夢よりもあいまいなあたたかさを
そして明日は朝から真っ赤な一日が
はじまる予感がするから
今この瞬間の昏れなずむ街の遠景を
この記憶の引き出しの中に
折りたたんでしまい込む作業だけ
忘れずにおこなっていく必要があります
それが旅に出る前の
夕日の約束です
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