亡霊の林檎、湯上がりの空/Seia
 
寂しかったのです
取調室で
ひとこと落ちた声

ブロック塀の向こうではためく日ノ丸に
今日が祝日だということを知る

軽自動車のフロントガラスに
顔を押し付けているぬいぐるみと目が合う

こちらから
あちら側へ
境界線は
あってないようなものでした
人類にとってではなく
自分のための一歩
踏み出したひと
踏み出せなかったひと

悲しみも――喜びも

言葉に詰まると
ふたつの感情が交差して
蝿のように身体の周りを飛ぶ
すこしでいいから
黙っていてくれないか

湯気の向こうに
明日が浮かび上がる
予定と天気予報と用意したはずの荷物
スーパーム
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