四月/紫野
 
それは薔薇の花
かもしれない
鼻孔の記憶を痛いほど締めあげながら
目の奥に唐草を描く
たゆたう紫は
いくらもいくらもはいってきて

それは空白のノート
なのかもしれない
サフランの香りがする
芯の細い鉛筆で
鳥の羽根を写していった
あともうすこしで
完成すると思ったのに

それはあなたの手
だったかもしれない
背骨をすすとつたわりながら
咽の奥に甘やかに蜜をのこす
そして冷たく閉じてゆく
その日のうちに
はい は いいえに転じて

それは春という季節なのだろう
すべてを解放してやりたいと
願って解いた扉はまた
新しい呼び鈴を用意して

罠だと知りつつ踏み入れる
私の不用意な足首を待ち受けている




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