十月に(月と柘榴)/待針夢子
 
う、
満月にはまだ少し遠い月が、黄色い汗をかいて泳いでいます。


食欲があるような気がして土鍋の蓋をとると、
ネギの散った雑炊の真ん中に、
丸のまま割り入れられた卵が、
見事にボイルされていました。


思わず蓋を取り落とし、
窓に向かってげらりげらりと大笑いをしました。
腫れ上がった喉がヒィと音を立て、
激しく咳き込んでしまっても、
よくこれでフードバーでバーテンが勤まるものだと。
今ごろすまし顔でシェイカーを振っているであろうと。
いない比奈子に思いを馳せ、
私は笑いつづけます。
煮込みうどんを作ろうと、乾麺と卵を一緒にゆでて、一
躍先輩の人気者になった
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