This is a pen/やまうちあつし
 
地は震え
大波が攫った
望まれて生まれたものと
生まれてはいけないものの
区別はなかった
一本のペンだけが
その訳を知っていた
   
部屋の扉を開けてみるといい
ノートやメモ帳は堆く
地層のように
積み重ねられている
笑ったときも黙ったときも
病めるときも健やかなときも
言葉を刻むのはなぜだろう

その人が死んだ夜
近所の人は
不思議なペンの噂を聞きつけ
ノートの上に走らせてみる
けれどもペンは
線を描きはしなかった
さっきまで持ち主が
文字を記していたはずなのに
隣人は首を傾げながら
ペンを棺に納めた
これはあの人のペンだから、と

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