村の記憶/帆場蔵人
前はきっとあの辺りが畑でなかったんだろうなぁ。台風や山崩れで荒れても、また手を入れてな。やり直してきたんや。あの山な、あの山でみんな谷にかえるんや」
それから
釣り竿を黙って作りはじめた
夏の風にのってきた牛の鳴きごえ
(谷にかえるよ、みんな)
よくわからないけれど
みんなそこにいるのだと
むねに仕舞い込んだ
膝を抱えて桶のなかに祖父は置かれている
昨日はあれだけ叫んでいた人が
小さく固められて、黙っている
たくさんの人々が村中や村外からも集まり、築百年のだだっ広い家にも入りきれずに、庭でざわざわと挨拶や故人のこと、まったく関係ない猿が家に入って鍋の肉じゃがを食べ
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