沈黙の海/
新染因循
り。
いつかの海面が剥離して空になる。
空は欠けらになって暮れていく、
忘れられたさいごの空を
瓶に掻きあつめると夜になる。
夜は、
名を失くした亡霊たちと
いまだ言葉たらずな沈黙をたたえて、
深く、深く
夜明けの潮騒と泡沫のように
記憶の底から響いてくる便りはいつだって
囁き一つものこさないで、
そして大口をあけた底抜けの
海が、
海だけが残る。
海だけが残ると、
忘れたい人が来る。
忘れたい人は沈黙のなかに
息を吐いて、
海になる。
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