「薔薇の下」/桐ヶ谷忍
これが成長かと自嘲することが多々あった
悲鳴のような少女の唄声を聴きながら
私はほじくり返そうとした泥をまた埋め直し
庭の水道で爪の間の泥を丁寧に流し
また薔薇の下にしゃがみこんだ
唄声は子守唄のように変わっていた
しずくに濡れて水滴まで紅色に見える薔薇の下には
私が幼い時に埋めた人形が埋まっている
女に成る前に埋めた、大切にしていた人形
毎日なにがしかの感情を覚えていったあの懐かしい日々
今の私の感情を
少女はついに知らぬままに埋められた
それでいいと思った
あどけなく唄う声を聴きながら
私はいつまでも雨降る庭の片隅にしゃがみこんだ
薔薇の下から
少女の声は絶えることなく唄い続けられた
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