雨上がりの午後に/嘉野千尋
 

  海岸沿いを走り始めた電車が
  古い町並みを置き去りにするから
  わたしは前を向くしかなかった
 
 
  「さようなら」


  雨上がりの午後
  西日の縁取る横顔も静かに
  
  
  唇だけで、言葉を刻んだ
  届かなくていい、それでもいい
  だけど乾いたままの瞳に
  涙がほしいと願った


  遠ざかる町並みに
  夕凪の海は静かに寄り添う
  小さくなっていくのは
  ほんとうはわたしの方なのだと
  もう気付いてしまったから


  さようなら、
  さようなら


  旅立ちという一言で
  どうかこのすべてを飾らせて



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