雨上がりの午後に/嘉野千尋
海岸沿いを走り始めた電車が
古い町並みを置き去りにするから
わたしは前を向くしかなかった
「さようなら」
雨上がりの午後
西日の縁取る横顔も静かに
唇だけで、言葉を刻んだ
届かなくていい、それでもいい
だけど乾いたままの瞳に
涙がほしいと願った
遠ざかる町並みに
夕凪の海は静かに寄り添う
小さくなっていくのは
ほんとうはわたしの方なのだと
もう気付いてしまったから
さようなら、
さようなら
旅立ちという一言で
どうかこのすべてを飾らせて
戻る 編 削 Point(6)