夢見/e R i
 
う有様でそんな遠さに
今更手をのばしても、もう、遠いんだ

ひとんちのバスタブで、
両手をのばす
出来るだけとおくに、のばす
右にも、左にも、下にも、上にも、
名前がわからない角度にだって
両手をそろえて、のばす

3月の三学期が終わって
誕生日4月の一学期が始まる
桜がチロチロと漏れ始める、春

届かなくても、触れられなくても、それでも両手を遠
くに伸ばすとバスタブのお湯がちゃぷんと音をたてて
吸い付く指先が遠くまで連れ去ってくれるような気に
なるので、遠くを不思議と不安にも感じることなく眠
ることが出来そうだとこの時からもう確信していた。
眠っている間にアタシの両手は確実に君に向かって伸
びているはずで、夢の中に君が現れても現れなくても
両手は君に近づいているのだと思うと少しドキドキす
るのだけど朝起きて、両手を合わせると左手だけが少
しだけ伸びていて少しだけ近づけた証を、ようやく見
つけられたんだと遠くに、安堵を浮かべた。
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