リリカルな私/神坏弥生(涛瀬チカ)
 
リリカルな私 涛瀬チカ改め神坏弥生

例えば、白と黒の鍵盤に向かって
白から黒へ黒から白へと半音ずつ上げてゆきながら
サティを弾いてみる
午後に明るい日差しがさしてカーテンが
膨らんで揺れている
軽やかなリズムに乗って
オルゴールの踊り子が
ドレスの裾を膨らませながら踊り続ける

昼、食したアコヤ貝に一粒の真珠をのせて
ころころと転がしてみる
草にのった露のように沿ってゆく
一粒の真珠
誰かの涙だったようだ
私だったろうか
それとも彼だったろうか
記憶の中で想い出となり
宝石箱の中にしまわれる

私が彼を初めて見たとき
彼は無表情な横顔を見せていた

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