茶柱/宮内緑
の真似をはじめる
あつい、と指をふうふうしながら
そのうちようやく一本の茶柱が立って
ふたりしてはしゃいでいる
お勝手にいた母もひき寄せられて
茶殻だらけの湯呑みを見下ろす
みてみてお母さん、茶柱が立ったのと
娘は手を頭のうえであわせ
独楽のようにくるくる回って
母のふところへ飛び込む――
玄関の方では音がした
息子も帰ってきたのだろう――
目をあけると薄暗い天井があった
咳き込むのに疲れて眠っていたらしい
喉は幾分やわらいでいた
ぼんやりとながめる息苦しい部屋
ころがっている急須
娘の名前はなんだったろうかとおもう
母の名前も 息子の名前も
思い出せるはずもなかった
名づけたことがないのだから
さようなら、私の家族、と音がする
でもいつかこの世界で会えたらと
いつもどこかで願ってしまう
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